民法改正情報

売買契約の瑕疵担保責任
「瑕疵」から「契約不適合」へ。契約内容の明確化が重要! 

現行の民法では,売買契約について「瑕疵担保責任」というのが定められています。

これは,「売買契約の目的物に隠れた『瑕疵』があったとき」には買主が売主に損害賠償等を請求したり契約解除できる,というものです。

もっとも,「瑕疵」というのが意味する範囲は広く,不明確でもあります。裁判でも,売買された物に問題があったという事案で,それが「瑕疵」といえるのかが争われた時に,一審,二審,上告審で,(つまり裁判官によって)判断が違うということもあります。

 

改正民法では,この瑕疵担保責任について,「瑕疵」という言葉の代わりに,「引き渡された物が契約の内容に適合しない」(契約不適合)という言葉が使われることになりました。

「契約の内容に適合しない」かどうかは,「契約の内容」が明らかでないとわかりません。

したがって,売買契約の時点で,売買される物が,どのような目的で,何に使われるために,どのような品質のものである必要があるのか,など,「契約の内容」を明らかにすることが,これまで以上に重要になると考えられます。

 

また,現行民法の瑕疵担保責任では,損害賠償,解除,(場合によって)代金減額が認められるだけでしたが,改正民法では,追完請求権や,代替物提供請求権(代わりの物を提供しなさいという権利)も認められることになりました。

 

これは,改正法施行後(令和2年4月1日予定)の後に成立した売買契約に適用されます。

 

 

債権の消滅時効期間が変わります

民法改正の目玉の一つが,消滅時効期間の改正です。

現行の民法では,債権の消滅時効期間は,権利を行使できるときから10年間,というのが原則でした。また,商法では商行為によって生じた債権の消滅時効を5年間としているので(商事消滅時効),事業者の方々には「債権の時効は5年」という感覚が強いと思います。

また,民法上,債権の種類によって5年よりも短い「短期消滅時効」というのが定められており,たとえば工事の請負代金なら工事終了から3年間,商品の売買代金は2年間,運送料や飲食店の飲食料,旅館の宿泊料は1年間などなど,細かな区分がされています。

改正民法では,これらの商事消滅時効や短期消滅時効が廃止されることとなり,以下のように整理されました。

 

【原則】

①権利を行使することができることを知ったときから5年間

②権利を行使できるときから10年間

※権利を行使できるときに,行使できることを知っていたならその時から5年間ということになります。

 

まず,この原則をおさえておいてください。

 

上記の消滅時効期間には例外もあります。たとえば,

 

不法行為による損害賠償請求権

①損害及び加害者を知ったときから3年間

②不法行為のときから20年間

ただし生命,身体の侵害による不法行為損害賠償請求権

①損害及び加害者を知ったときから5年間

②不法行為のときから20年間

 

製造物責任法による損害賠償請求権

①損害及び賠償義務者を知った時から3年間
ただし生命または身体を侵害された場合は5年間

②当該製造物の引渡しから10年間

 

労働者の賃金請求権

2年間(今のところ労働基準法の消滅時効の規定は改正されていません。)

 

なお,①改正民法の施行日前に生じた債権,②(施行日後に生じた債権であっても)債権の発生原因である法律行為が施行日前に生じた債権については,改正民法の施行日後であっても,現行の民法どおりとなります。このあたり,実務が混乱する可能性がありますので,ご注意が必要です。

 

民法改正

民法改正により、定形約款に関するルールが新設されました。
webサービスで利用規約を定めている事業者様、不特定多数のお客様と定形的な契約条項で取引されている事業者様には特に重要です。

定型約款のルール

 「定型約款」とは、「定型取引」において準備された契約条項の総体をいいます。

 「定型取引」とは、①ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、②取引内容の全部または一部が画一的であることが当事者の双方にとって合理的な取引、のことをいいます。

 たとえば、不特定多数の人が利用するコンピュータソフトウェアの利用規約や、預金約款などは、「定型約款」にあたります。

 現行の民法では、定型約款について特に定めがありませんでしたが、改正法によって、定型約款の定義や、どのような場合が有効かなどが規定されました。


1 定型約款が契約の内容として認められるための基本的な要件(改正民法548条の2)

(1)当事者が定型取引を行うことを合意したこと、

 かつ、

(2)当事者が定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたか、または、

(3)定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していた場合には、定型約款の個別の条項についても合意したとみなす、と規定されました。

  

 つまり、上記の要件を充たせば、契約約款の一つ一つの条項について相手の同意を明確に取り付けていなくても、それらが有効な契約内容になるということが明確にされました。
 この要件を充たすため、具体的には以下の3つのうちいずれかを行っておく必要があります。

①双方が署名・押印する契約書に、契約約款の条項に従う旨の文言を入れる、

②契約約款を準備した側が、相手方から、契約約款の条項への同意を取り付ける

③契約を結ぶ前にあらかじめ、契約約款を準備した側が相手方に対し、「契約約款を契約内容とすること」を表示しておく

のいずれかが必要となります。

 

※なお、③の「表示」は、相手方への表示が必要であり、「公表」では足りません。ですから、自社のホームページ上に記載しておく、というだけではないく契約相手に伝えることが必要です。

 

2 定型約款が有効と認められない場合(改正民法548条の2,3)

 前記1の要件を充たしても、以下の場合には、定型約款が契約内容とは認められません。

(1)定型約款の内容が信義則に反して相手方の利益を一方的に害するものであるとき

(2)定型約款を準備したものが相手方から、取引合意の前後に定型約款の内容を表示するよう請求されたのに、これを拒んだとき。
ただし、既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付したり、データで提供していた場合には、表示の必要はありません。

 

3 定型約款の変更が認められる場合(改正民法548条の4)

(1)定型約款の変更が相手方の一般の利益に適合するとき、または、

(2)定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更にかかる事情に照らして合理的なものであるとき

(1)か(2)に加え

(3)インターネットその他適切な方法で周知した場合に、定型約款の内容の変更が認められます。

 

 なお、(3)の周知の方法は、取引の態様によって異なると考えられています。たとえば、インターネットのサイト上の定型取引の場合であれば、サイト上での告知、小売店での取引なら店舗での表示、などが考えられます。

 

4 他の法律との関係

 上記の各要件を満たしていても、消費者契約法など、他の法律に抵触する条項は無効となる場合があります。消費者契約法も昨年改正され、今年6月から改正法が施行されていますので、今使われている約款が法律に適合しているか再度確認しておかれることをお勧めします。 

 

労働判例情報

京都地裁平成29.3.30 福祉事業所事件
求人票の記載内容がそのまま労働契約の内容になるか

判示の要点
 採用通知(内定)の時までに求人票と労働条件が違うことを明確にしていなかった場合には,内定の時に,求人票の記載の通りの内容で労働契約が成立したと認められる。
 そして,採用後に求人票より不利益な労働条件の雇用条件通知書を渡し労働者の署名押印を得ていたとしても,それは労働条件の不利益変更ということになるので,労働者の同意の有無,雇用条件通知書の内容の有効性は厳しく判断されることになる。  

求人票を出される際,その記載内容は慎重に確認して下さい。また,求人票と異なる雇用条件で採用する場合は,必ず内定よりも前に十分な説明を行い,それを書面化しておく必要があります。

民法改正

民法改正が2018年5月に成立 3年以内に施行予定

主な改正点
 ①消滅時効の期間の変更,②法定利率の引き下げと変動制,③保証人保護の拡充,④約款に関する規定,⑤売買の瑕疵担保責任の改正,などです。
 事業者様の取引にも重大な影響がありますので,今後,なるべく具体例を挙げながら少しずつご紹介いたします。

2017年

8月

20日

退職に関する諸問題

お盆が明けました。阿波踊ることを最大の喜びとして生きている私には、秋風とともに寂しさが吹き抜け、太ももの筋肉痛だけが微かに残っています。

さて、お盆直前のことですが、複数の顧問先企業様から、退職に関するご相談が相次ぎました。

退職が決まっている従業員の賞与を減額することの是非、従業員貸付の返済が残っている退職従業員からの回収方法、亡くなった従業員の遺族との権利関係の整理、試用期間中に行状の悪さが発覚した従業員の本採用拒否、などなど、早いタイミングで手を打つべき課題が盛りだくさんでした。

退職にまつわる様々な問題を整理する機会ともなりました。

 

弁護士 鈴木亜佐美

2017年

8月

02日

セクハラ裁判(会社側)での和解

会社が従業員をセクハラの事実で懲戒処分したところ、処分された従業員が会社に対し、不当な懲戒処分を受けたとして慰謝料請求の裁判を起こしたことから、当事務所が会社から事件の委任を受けました。

裁判では、原告によるセクハラの事実があったかどうかなどが争われました。

セクハラの事実を立証するため、セクハラ被害を受けていた女性従業員が報告書の提出や法廷での証言などをしてくれました。被害を受け恐怖を感じている彼女達にとって、セクハラの事実を思い出し、自分の顔や名前を出して供述をすることは大変な苦痛と勇気を伴うものでした。

今回の事件では、数々の書類や、法廷での被害女性の証言、原告への反対尋問によってセクハラの事実はほぼ明らかとなり、勝訴的な和解を結ぶことができました。また、裁判に協力してくれた女性従業員らが原告から逆恨み被害を受けないための和解条項を盛り込めたことも大きな成果でした。

 

ところで、勝訴判決や有利な和解を獲得するためには、当たり前ですが、こちら側の主張を支える十分な証拠を裁判所に提出することが不可欠です。

セクハラやパワハラ事案において、会社がハラスメントの事実を認定し懲戒処分すれば、今回のように処分された側から訴えられることがあります。逆に、ハラスメントの事実を認めず処分を行わなければ、ハラスメント被害を主張する側から訴えられる可能性があります。

したがって、会社としては、いずれの立場をとるにしても、慎重に調査を行い、会社の判断を裏付ける証拠を確保することが不可欠です。

そして、どのような調査を行い、どのような証拠を残すべきかは、後に訴訟になった場合を見据えて検討しなければなりません。

今回の事件では、会社が懲戒処分を行う前から当事務所にご相談くださっていたことが、裁判の結果につながりました。長い紛争が解決し、とりあえずほっとしています。

 

弁護士 鈴木亜佐美

 

2017年

6月

24日

労災申請への対応(企業側)

顧問先の企業様で、従業員から、熱中症になったのは会社の職場環境に原因がある、ということでの労災申請がなされました。

事実調査と労基署への対応についてご依頼を受けた当事務所は、申請した従業員と職場の管理者から事情を聴きとり、職場の立地、従業員のシフト表、熱中症発症当時の外気温などを調査したうえで、上記熱中症は職場環境以外に要因があるとの意見書を作成して労働基準監督署に提出しました。

結果として、労災は認められず、不支給となりました。

 

弁護士 鈴木亜佐美

 

2017年

6月

24日

副会長の仕事

4月から徳島弁護士会の副会長に就任してもうすぐ3か月になります。

多くの集団における「副●長」と同様、当会の「副会長」も、種々の調整を黙々と行う実働部隊です。

昨年まで、私がのほほんと委員会や協議会などに出席して気楽に意見を言ったり、弁護士会のサービスを利用できていたのは、当時の会長や副会長が沢山のお膳立てをしてくれていたお蔭なんだなあ、と今更ながらに思い知っています。

他方で、普段一緒に仕事をする機会のない会長や他の副会長との共同作業が、ちょっと楽しかったりもします。

なんだか業務量が1.25倍くらいになった感じがありますが、残り4分の3の任期も気を抜かずに頑張りたいと思います。

副会長業務は「甘くない」というブログでした。

 

弁護士 鈴木亜佐美

 

2017年

6月

06日

企業様のご希望通りとは限りません(新事業立ち上げ編)

「こんなサービスを始めたいからこんな契約書作って。」

という企業様のご相談にはわくわくします。

今まで誰もやったことのないサービスを思いついて形にしていこうとする経営者の方々は本当にかっこいいです。心から尊敬しています。

ただ、経営者が「こうしたい」と考えるアイデアを、そのまま事業として進めてしまうと、なにかしらの法律にひっかかることはよくあります。誰も考えなかったサービスの場合、法律もそんなサービスを想定していませんから。

せっかく多くの人の役に立つことができるのに、後で法律違反で足を掬われては元も子もありません。

ですから、そのような場合、企業様が求める通りの内容の契約書作成はお引き受けできないことがあります。

その代わり、企業様のアイデアを、今の法律に適合するように実現するにはどういう方法があるかを考えます。そして、今の法律に沿いながら、アイデアを実現するビジネスモデルを作るお手伝いをさせていただきます。

 

弁護士 鈴木亜佐美

 

 

2017年

8月

20日

退職に関する諸問題

お盆が明けました。阿波踊ることを最大の喜びとして生きている私には、秋風とともに寂しさが吹き抜け、太ももの筋肉痛だけが微かに残っています。

さて、お盆直前のことですが、複数の顧問先企業様から、退職に関するご相談が相次ぎました。

退職が決まっている従業員の賞与を減額することの是非、従業員貸付の返済が残っている退職従業員からの回収方法、亡くなった従業員の遺族との権利関係の整理、試用期間中に行状の悪さが発覚した従業員の本採用拒否、などなど、早いタイミングで手を打つべき課題が盛りだくさんでした。

退職にまつわる様々な問題を整理する機会ともなりました。

 

弁護士 鈴木亜佐美

2017年

8月

02日

セクハラ裁判(会社側)での和解

会社が従業員をセクハラの事実で懲戒処分したところ、処分された従業員が会社に対し、不当な懲戒処分を受けたとして慰謝料請求の裁判を起こしたことから、当事務所が会社から事件の委任を受けました。

裁判では、原告によるセクハラの事実があったかどうかなどが争われました。

セクハラの事実を立証するため、セクハラ被害を受けていた女性従業員が報告書の提出や法廷での証言などをしてくれました。被害を受け恐怖を感じている彼女達にとって、セクハラの事実を思い出し、自分の顔や名前を出して供述をすることは大変な苦痛と勇気を伴うものでした。

今回の事件では、数々の書類や、法廷での被害女性の証言、原告への反対尋問によってセクハラの事実はほぼ明らかとなり、勝訴的な和解を結ぶことができました。また、裁判に協力してくれた女性従業員らが原告から逆恨み被害を受けないための和解条項を盛り込めたことも大きな成果でした。

 

ところで、勝訴判決や有利な和解を獲得するためには、当たり前ですが、こちら側の主張を支える十分な証拠を裁判所に提出することが不可欠です。

セクハラやパワハラ事案において、会社がハラスメントの事実を認定し懲戒処分すれば、今回のように処分された側から訴えられることがあります。逆に、ハラスメントの事実を認めず処分を行わなければ、ハラスメント被害を主張する側から訴えられる可能性があります。

したがって、会社としては、いずれの立場をとるにしても、慎重に調査を行い、会社の判断を裏付ける証拠を確保することが不可欠です。

そして、どのような調査を行い、どのような証拠を残すべきかは、後に訴訟になった場合を見据えて検討しなければなりません。

今回の事件では、会社が懲戒処分を行う前から当事務所にご相談くださっていたことが、裁判の結果につながりました。長い紛争が解決し、とりあえずほっとしています。

 

弁護士 鈴木亜佐美

 

2017年

6月

24日

労災申請への対応(企業側)

顧問先の企業様で、従業員から、熱中症になったのは会社の職場環境に原因がある、ということでの労災申請がなされました。

事実調査と労基署への対応についてご依頼を受けた当事務所は、申請した従業員と職場の管理者から事情を聴きとり、職場の立地、従業員のシフト表、熱中症発症当時の外気温などを調査したうえで、上記熱中症は職場環境以外に要因があるとの意見書を作成して労働基準監督署に提出しました。

結果として、労災は認められず、不支給となりました。

 

弁護士 鈴木亜佐美

 

2017年

6月

24日

副会長の仕事

4月から徳島弁護士会の副会長に就任してもうすぐ3か月になります。

多くの集団における「副●長」と同様、当会の「副会長」も、種々の調整を黙々と行う実働部隊です。

昨年まで、私がのほほんと委員会や協議会などに出席して気楽に意見を言ったり、弁護士会のサービスを利用できていたのは、当時の会長や副会長が沢山のお膳立てをしてくれていたお蔭なんだなあ、と今更ながらに思い知っています。

他方で、普段一緒に仕事をする機会のない会長や他の副会長との共同作業が、ちょっと楽しかったりもします。

なんだか業務量が1.25倍くらいになった感じがありますが、残り4分の3の任期も気を抜かずに頑張りたいと思います。

副会長業務は「甘くない」というブログでした。

 

弁護士 鈴木亜佐美

 

2017年

6月

06日

企業様のご希望通りとは限りません(新事業立ち上げ編)

「こんなサービスを始めたいからこんな契約書作って。」

という企業様のご相談にはわくわくします。

今まで誰もやったことのないサービスを思いついて形にしていこうとする経営者の方々は本当にかっこいいです。心から尊敬しています。

ただ、経営者が「こうしたい」と考えるアイデアを、そのまま事業として進めてしまうと、なにかしらの法律にひっかかることはよくあります。誰も考えなかったサービスの場合、法律もそんなサービスを想定していませんから。

せっかく多くの人の役に立つことができるのに、後で法律違反で足を掬われては元も子もありません。

ですから、そのような場合、企業様が求める通りの内容の契約書作成はお引き受けできないことがあります。

その代わり、企業様のアイデアを、今の法律に適合するように実現するにはどういう方法があるかを考えます。そして、今の法律に沿いながら、アイデアを実現するビジネスモデルを作るお手伝いをさせていただきます。

 

弁護士 鈴木亜佐美