ご存知ですか?~成年後見制度~

Aさんの悩み

「私の叔父のBは,現在老人ホームに入所しています。叔父は,重度の認知症のため,これまで叔父の財産は私の夫が管理していたのですが,その夫がこの度亡くなってしまいました。叔父に子どもはいないため,誰かが叔父の財産の管理をしなければならないと思うのですが,私も高齢なので,今後叔父の預貯金の管理や施設との契約更新などを行うのは大変です。どうすればいいのか悩んでします。」


Aさんによると,叔父であるBさんは認知症で,自分の財布や通帳がどこにあるのかもわからない場合もあり,自分の財産を自分で管理することができません。そこで,Bさんに代わってBさんの財産を誰かが管理する必要がありますが,Aさんはどうすればよいのでしょうか。

このようなときのために,「成年後見制度」という制度があります。

成年後見制度には,法定後見任意後見とに分けられます。

「法定後見」は,認知症や精神障害,知的障害等によって判断能力が十分でない方のために,家庭裁判所によって本人に援助者をつけてもらう制度で,判断能力の程度によって,後見,保佐,補助という3つの種類があります。

「任意後見」とは,現時点で法定後見が認められるほどの判断能力の低下がない場合でも,将来判断能力が不十分になった場合に備えて,ある程度判断能力があるうちから,あらかじめ自分で選んだ人物に財産管理の代理権を与える契約をしておくものです。

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今回のケースでは,叔父のBさんは,現時点で相当程度判断能力が低下していました。そこで,Aさんは,弁護士に相談し,法定後見制度を使うことにしました。

法定後見制度は,前述したように判断能力の程度によって以下の3つの種類があり,判断能力の程度については,医師の診断によって判断されます。

後見
家庭裁判所により,本人が精神上の障害により判断能力を「欠く」状況にあると判断された場合,「後見人」が選任される制度です。
 後見人は,本人に代わって取引をしたり(代理権),本人がした取引を取り消したり(取消権)できます。

補佐
補佐は,後見よりも本人の判断能力がある場合の制度で,家庭裁判所により,本人が精神上の障害により判断能力が「著しく不十分」な状況にあると認められた場合に,「保佐人」が選任される制度です。
 保佐人は,法律が定める一定の行為について,本人の行為に同意・追認をしたり,取り消したりできます。

補助
補助は,補佐よりもさらに本人の判断能力が高い場合の制度で,家庭裁判所により,本人が精神上の障害により判断能力が「不十分」な状況にあると判断された場合に,「補助人」が選任される制度です。
 補助人は,個別に審判で定められた行為について,本人に代わって取引をしたり,本人の行為に同意・追認をしたり,取り消したりする権限を持ちます。

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本件では,Aさんは,医師にBさんの判断能力についての診断書を書いてもらいました。

また,仕事で忙しく,自ら必要書類を集める等することが難しかったため,弁護士に代理申立を依頼して,家庭裁判所にBさんの成年後見の申立を行いました。

その結果,Bさんは,「成年後見」程度の判断能力と判断され,他の弁護士が成年後見人に選任されました。

今後は,家庭裁判所が選任した弁護士がBさんの財産を管理していくことになり,Aさんは一安心です。
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後見申立はそう難しい手続きではないので,一般の方でも自分でチャレンジしてみることも良いだろうと思います。ただ,時間がかかるのが困るとか,書類を集めるために平日昼間に時間が取れる人がいない場合や,自分でやってみたけど難しかったという場合などには,弁護士に依頼して申請を代理してもらうことも可能です(費用は15~20万円程度かかります)。

また,後見人,保佐人,補助人は,裁判所が専任するのですが,申立人としても一応希望を出すことはできます。特別な資格等は不要なので,本件のように第三者である弁護士等が就任することもできますし,本人の親族の方が就任することもできます。専門家後見人は仕事として業務を行うので,当然費用が発生します。そういう意味では,特に問題のない案件ならば,親族の就任を希望したほうがよいでしょう。

ただ,親族間に近い将来の遺産をめぐっての対立があるケース(よくあります)や,本人が虐待を受けているなどの事情があるケースでは,法の専門家である弁護士が成年後見人になった方が後の紛争・トラブル防止につながります。
また,やってみると分かりますが,後見業務は意外と大変です。当事務所でも,後見人になったはいいが,不適当な管理をしたとされて裁判所から後見人を解任されたという相談を受けたこともあります(その事案では後任として弁護士が選任されていました)。
自分で領収書を管理したり,記録を付けておくことが苦手な方は,初めから専門家に任せることを希望するのも良いでしょう。

(弁護士 大森 千夏)