会社不祥事の特効薬はあるか

1.会社不祥事の特効薬

企業の不祥事を巡る報道が連日のように続いています。
食品偽装にしても,宅急便にしても,問題はまだまだ氷山の一角でしょう。
このブログをごらんの方にも,実は内心ヒヤヒヤの方もいらっしゃるかも知れません。

不祥事が内部者のリークにより,世間を騒がすニュースになることは,経営上大変なマイナスであることはいうまでもなく,我々弁護士は,現実に倒産にすら至る事例も見てきています。倒産ということになれば,経営者だけでなく,従業員の方やそれらの家族,取引先等に甚大な影響が及びます。

これらを相当程度防ぐ方法があります。
しかも,不祥事自体を減らし,公益に合致するような方法です。

それが,内部通報窓口の整備です。



2 内部通報制度

実は,食品偽装事件や、自動車のリコール隠し事件など、消費者の安全や利益を脅かす企業不祥事の多くが、内部従業員による通報をきっかけに明らかにされました。

人間にはミスが付き物です。現実問題として,事業に関して「過失も含めて,絶対に違法な行為はしていない!」と断言できる方は少ないと思います。社長がコンプライアンス意識を高く持ち、社内教育を徹底しても、従業員の誰かが、故意にあるいは知らずに法律を犯してしまう危険をゼロにすることは困難です。

また、実際には違法な事実などないのに、従業員が違法だと勘違いしている場合もあります。そのような場合に,企業からすれば、従業員によって行政官庁やマスコミにいきなり通報されたら、計り知れないダメージを受けることになりかねません。他方で,外部にいきなり通報されることは最小限にとどめ,まずは自社で調査確認し,違法事実があれば是正する機会があれば,全く状況は変わってきます。

そのためには,「内部通報窓口」を,自社において設置すべきです。

「公益通報者保護法」は従業員が、社内における違法行為についての公益通報をした場合に、それを理由として会社が当該従業員を解雇したり不利益に取扱うことを禁じた法律ですが,この法律上も,会社自体が従業員からの内部告発を受け付ける「内部通報窓口」を設置している場合、従業員は原則として、まずはその「内部通報窓口」に通報することが求められます。従業員がこの窓口を利用せずいきなり外部に通報する場合、同法で保護されるための条件は厳しいものとなります。

たとえば、従業員が相当な裏付け資料を持っていなかったり、会社が内部通報に適切に対応しなかったなどの事情がないにもかかわらず、いきなりマスコミ等に「内部告発」した場合には、会社がその従業員を解雇しても、公益通報者保護法の適用はありません。
もちろん,合理的な理由のない解雇であれば,労働契約法によって解雇が無効とされる場合もありますが,内部通報窓口を無視して信用性の低い内部情報を外部に漏らすような行為は,従業員としての機密保持義務の違反や,会社の名誉毀損行為にあたる可能性も十分にあり,解雇が認められる場合も少なくないでしょう。

つまり、法律は

ア 会社が「内部通報窓口」を設置し,十分に機能させている場合には,会社の自浄作用を尊重しますが,
イ 会社がそのような対策をしていない場合には,従業員の「外部通報」を強く保護する,
という仕組みになっているのです。


3.内部通報窓口の設置の方法

この「内部通報窓口」は、どのように設置すればいいのでしょうか。

(1)一つの方法は、社内に内部通報窓口業務を行う部署を作ることです。
もっとも、この方法は、そのための人員を配置するコストがかかります。
また、内部通報窓口が適切な対応をとれなければ、かえって外部への通報を助長することにもなりかねませんが、この「適切な対応」というのがなかなか難しいのです。
たとえば、通報された内容が、そもそも公益通報者保護法にいう「公益通報」に該当かどうかの判断は、関係する政令を確認しなければできません。また、書面で通報がなされた場合には20日以内に調査を行う旨の通知をする必要があります。
したがって、ある程度規模の大きな企業でなければ、社内に窓口を作ることは負担が大きいといえます。

(2)そこで、会社外部に窓口を設置することが考えられます。
公益通報者保護法は、「労務提供先があらかじめ定めた者」を通報窓口とすることを認めています。例えば社外の弁護士、労働組合などです。弁護士が窓口になることで、従業員も会社内部より通報がしやすくなるので、問題の早期発見に役立ちます。
また、法律にのっとった適切な対応が期待できます。

弁護士法人リーガルアクシスも、現在,ある法人の公益通報窓口を担当しています。

なお、法律事務所(弁護士法人)を内部通報窓口にする場合には、気を付けるべき点があります。
たとえば、その事務所が企業と顧問契約を締結している場合です。
この場合も、公益通報窓口になることはできます。しかし、弁護士は、通報した従業員から聞き取った内容について、その従業員に対して守秘義務を負います。ですから、通報に関して会社が従業員と交渉したり、場合によって訴訟で争うなどの事態になった場合、顧問弁護士が会社の代理人として活動することは、守秘義務の観点から難しいのです。

そこで、弁護士が関与する場合には,次の3つのパターンが考えられます。

(1)会社と顧問契約は結ばず、公益通報窓口としてのみ業務を行う。(会社の代理人として従業員との交渉等は行いません。)
(2)顧問先の企業について、公益通報窓口にはなるが、通報内容に関する交渉や訴訟等において会社の代理人にはならない。
(3)顧問先の企業について、社内で公益通報窓口を設置する準備のお手伝いはするが、通報窓口業務は行わない。(この場合は会社の代理人になることが可能です。)

既に顧問弁護士がおられる会社でも,上記の点はよくご相談の上で対応を検討された方がよいと思います。

4.当事務所の方針

ところで,当事務所の理念は,「法で社会をhappy!に」することです。
例えば紛争案件で言えば,もちろん依頼者の正当な利益をしっかり確保するという前提ではありますが,一方的・短期的視点で「とにかく何が何でも依頼者の目先の利益を最大化する」という姿勢ではありません。できる限り,紛争の相手方にも納得感があり,社会的に妥当と評価されるような公正な解決を目指しています。そのことが,裁判所や相手方代理人の信頼を勝ち得,結果的に勝訴率を上げ,また,長期的に依頼者の利益を最大化することにつながることが多いと考えるからです。

また,そもそも紛争化させないための各種規定や仕組み作りによって,トラブルを未然に防ぐ「予防法務」に力を入れています。

今回ご紹介した「内部通報窓口」の仕組みは,当事務所の上記のような理念に合致しているため,利用しやすい価格帯で,積極的にご提案していこうと考えています。
また,業界団体や協同組合様等の数社単位で共同して,ご契約頂くことができる場合もあります。その場合は,一社単位でご契約頂くより更に低コストで窓口を設置できるかもしれません。

法律の詳しい内容や、窓口の設置方法などは,相談予約(電話088-678-7516)の上,ご相談ください。

(弁護士 鈴木 亜佐美)