食品表示偽装とコンプライアンス

料理好きの弁護士,立石です。

某有名ホテルでレストランのメニューに実際とは異なる食材を表示していたことが話題になっています。報道によると「鮮魚のムニエル」と書かれているのに実際は冷凍保存した魚だったり,「レッドキャビア」と書かれているのにトビウオの卵だったり,「有機野菜」と書かれているのに有機野菜ではなかったり。

商品やサービスに実際よりも良くみせかける不当な表示がなされていたりするとどうなるでしょうか? 消費者はそれに釣られて商品やサービスを購入するということが容易に起こりうるわけです。品質と価格とが釣り合っていないのですから、買った時点で損をしてることになります。消費者に意図的に誤解を与えて商品やサービスを購入させるということがまかり通っていいわけがありません。

 

それを防ぐための法律が景品表示法です。
景品表示法は品質・内容・価格等を偽って表示する「不当表示」を厳しく規制しています。
今回の事件では「不当表示」として商品の品質や規格その他の内容が実際よりも著しく優良であると誤認させる表示がされていたかどうかが問題になっているわけです。表示の偽装で問題となる法律は景品表示法だけではありません。民法や消費者契約法で契約の取消事由となりうるほか,軽犯罪法違反や詐欺罪といった犯罪に該当する場合もあります。

現在,消費者庁が景品表示法違反の有無を調査しています。


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今回問題となったホテルは,今回の偽装表示が行われた原因の一つとして「担当者に景品表示法などの知識が不足していたため」という説明をしているようです。内部の実情がどうだったかはわかりませんが,企業としてコンプライアンスの意識が不十分だったことは間違いないでしょう。

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今回の事件の本質はどこにあるのでしょうか? 法律知識の欠如だけで片付けられるのでしょうか?
「人を騙して利益を得る」行為は,反倫理的であると同時に何らかの法律に抵触する可能性が高いのです。倫理、道徳と法律を全くの別物と感じている人もいますがそうではありません。その国の倫理観・道徳観が強く反映された集大成が法律なのですから。
コンプライアンスとは細かな法律知識を仕入れることではありません。企業が利益を上げるための事業活動を行いながら倫理や道徳といった社会規範を踏み外さないこと。このバランス感覚を経営者・従業員の皆さんが共有することなのです。

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なお,飲食業界は価格競争の波にさらされており、電気料金の値上げ、食材の値上げなど厳しい環境に置かれています。人件費の切り詰めも精一杯に企業努力として行って、最後に残ったコストカッターの領域が食材だった、というのは料理好きにとってはとても悲しいことです。
企業は社会の鏡です。もしかしたら、私たちの潜在意識が企業をそうさせてしまったのかもしれません。

結果には必ず原因があります。当該の企業だけが悪いと断罪するのは簡単ですが、私たちの意識が変わらないと将来また同じようなことが繰り返されることだってあるでしょう。


法律は人や企業を裁くためだけにあるのではありません。社会の意識の集大成が法律であるならば、私たち消費者も「ほんとうに誠実であるか?」今回の事件を機に胸に手を当てて考えて見るべきではないでしょうか?

(弁護士 立石 量彦)