労働あっせんの活用法

労働局でやっている「労働あっせん」の「あっせん委員」を務めて5年くらいになります(記憶が正しければ)。
「労働あっせん」については,あまりご存知ない方が多いと思うので,ちょっとご紹介します。

「労働あっせん」とは,労働者と,使用者(会社等)との間で,労働関係をめぐる紛争が起こったときに,労働局での話し合い(原則1回きり)による解決を目指すものです。

たとえば,労働者が,「不当に解雇されて納得いかない。慰謝料と,これまでの未払い残業代をまとめて100万円払って欲しい。」と会社に求めたとします。
担当になったあっせん委員は,労働者側,会社側双方から事前に提出された主張書面や資料を読み込み,あっせん当日にはそれぞれから直接話を聴いて,お互いの言い分を確認します。

労働者側と会社側とでは,言い分が食い違っていることがよくあります。
でも,あっせん委員は,どちらの言い分が正しいか,という判断は一切しません。労働あっせんでは,勝ち負けは決めず,言い分の食い違う点は棚に上げたままです。それでも,「この解決案で決着がつくなら,今日で争いは終わりにしよう。」と思える解決案を探すのです。

もし,自分が正しいことを明らかにし,求める結果を出すためにとことん戦いたい,と思う場合には,訴訟等で徹底的に争えばよいでしょう。
しかし,紛争の内容や金額によっては,多大な費用や時間,労力,精神力を使うくらいなら,ある程度折り合って早く解決したい場合もあります。労働あっせんは,労働者と使用者がどちらも,このような希望を持っている場合に向いている手続きといえます。

あっせんの進め方はあっせん委員によっても違うでしょうが,私の場合には,事案の内容を確認した上で,当事者に対し,この事案が徹底的に争われた場合に予想される問題点,訴訟の負担やリスクなども説明します。その上で,労働者側,会社側と,双方納得できる解決方法がないか一緒に考えます。

なお,「労働あっせん」は,労働者側が申請する場合が多いのですが,会社が申請することもできます。
また,申請された(訴えられた)側が,あっせんに応じる義務はありません。労働者が申請をしても,会社側が「あっせん手続きに参加する気はない」と言えば,あっせんは開かれません。
これを裏返せば,あっせん手続きが開かれる,ということは,当事者双方が,「あっせんで素早く解決できたらいいな」という期待をもって臨んでいる,といえます。
ですから,あっせんが開かれた場合,解決に至る可能性は,かなり高いと考えることができます。

労使関係のトラブルを抱えている方は,あっせん手続きの利用も選択肢の一つです。
(鈴木亜佐美)